『国際開発ジャーナル』2016年8月号掲載 連載 変わるアフリカ 変える日本企業
インフラ・消費分野に事業拡大
新興国企業とのパートナーシップがカギ
2000年代に入ってから、資源ブームを背景に急速な経済発展を遂げているアフリカ。1950年代からアフリカでビジネスを展開してきた三菱商事(株)にとっても、今、アフリカ事業は転機を迎えている。最終回は、深化を続ける同社の取り組みに焦点を当てたい。
1950年代から事業を継続
アフリカ諸国の独立に沸いた1960年代、繊維産業を中心にさまざまな日本企業がアフリカで活躍していた。しかしその後、内戦などによりアフリカの社会情勢が不安定化した70~90年代には、多くの日本企業がアフリカから撤退、あるいは事業縮小を余儀なくされた。こうした中、粘り強くアフリカでビジネスを継続してきたのが、三菱商事だ。
同社がアフリカに進出したのは55年、エジプトのカイロ事務所の設置にさかのぼる。その後、50年代に南アフリカ共和国やケニア、60年代にはエチオピアやナイジェリア、70年代にはアルジェリアやコートジボワールなどに次々と事務所を開設していき、現在はアフリカ全域をカバーする形で12カ国に駐在事務所を設置しており、日本人駐在員は約30人、現地社員も入れると約100人の陣容で、アフリカ市場を開拓している。
同社のアフリカ事業は、資源開発から農産品・工業製品の売買まで多岐にわたる。このうち、長年にわたり取り組んでいる資源開発事業の主な案件には、74年、86年に開始したガボンとアンゴラの石油開発、そしてモザンビークで98年から取り組んでいるアルミ製錬事業がある。
モザンビークのアルミ製錬事業については、同国の復興を担った国家プロジェクトとして、現地から高い評価を受けている。モザンビークは92年まで続いた内戦により、国土が荒廃した。こうした中、三菱商事は、資源メジャーのBHPビリトン(現South32)と共に、同国政府の強い期待を受けてアルミ製錬事業に着手。プラント建設時には約1万人の雇用を創出したほか、一時は同国GDPの半分以上を生み出し、「モザンビークの奇跡」と呼ばれる同国の急速な経済発展の原動力となった。同事業は、現在もモザンビークの外貨収入の約3割を稼ぎ出している。
第三国企業との連携を強化
半世紀以上にわたりアフリカでビジネスを展開してきた三菱商事。近年、そのアフリカ戦略はさらなる深化を見せている。
アフリカでは近年、急速な人口増加や、経済発展による中間所得層の拡大を背景に、新たなビジネスチャンスが生まれている。こうした機会を捉えるべく、同社はインフラ分野と消費関連分野への取り組みの強化を図っている。
アフリカのインフラ事業に関しては、三菱商事はこれまでも日本の政府開発援助(ODA)を通してケニアのモンバサ空港拡張工事やオルカリア地熱発電プラントの建設など、さまざまな事業を手掛けてきた。そして、膨大な需要を抱えるアフリカのインフラ市場にさらに切り込むため、同社が現在進めているのが、アフリカ・新興国市場に強い他国企業との連携だ。
その手始めとして、まず2014年、三菱重工業(株)と共にドバイの総合水事業会社「メティート社」の株式を約4割取得した。メティート社は、上下水道などの設計・建設から運営までを幅広く手掛けているほか、海水淡水化施設の据付数は世界5位の実績を誇る。メティート社は15年からルワンダで官民パートナーシップ(PPP)による浄水場の整備事業を受注している。これは、プラントの建設に加え、一定期間の操業も請け負うBOT事業だ。こうした成果を踏まえつつ、今後も三菱商事は同社と共に、さらなるアフリカの水インフラ需要の獲得を目指す。
また、三菱商事は15年、トルコの総合エネルギー・インフラ事業会社「チャルックエナジー社」の株式も取得した。同社は、中央アジアなどカントリー・リスクの高い新興国におけるプロジェクト管理に定評があり、アフリカではリビアでの実績もある。今後は同社と共に、アフリカの電力インフラ需要の開拓を進める予定だ。
食料関連分野に関しては、15年、シンガポールを拠点とする農産物事業会社「オラム社」に20%出資し、資本業務提携を締結した。オラム社は、コーヒーやカカオ、ナッツ類の取り扱いで世界トップクラスの実績を有し、世界65カ国で事業を展開しているが、もともとナイジェリアで設立された会社であり、アフリカに強い事業基盤を持っている。こうした中、三菱商事は同社を通じてアフリカの食料関連ビジネスに多角的に参入していくことを狙っている。
このほか、英国の投資会社「アクティス」社が運営するアフリカの不動産ファンド「アフリカ・リアル・エステート・ファンド3」に出資を行った。同ファンドへの出資を通じて、投資リターンに加え、アフリカでの事業機会などの現地ビジネス情報へのアクセスも期待しているという。
さらに近年では、国際協力機構(JICA)や ( 株)国際協力銀行(JBIC)、日本貿易保険(NEXI)の支援制度の整備が進んでおり、こうした追い風も生かしてアフリカ市場の開拓を加速していく構えだ。
CSRにも注力
アフリカでは、急速な経済発展を背景に、ショッピングモールやビルが次々建設されるなど、豊かさの兆候が目立つようになっている。アフリカビジネスの関係者などからは、「90年代に比べ、都市の様子は様変わりしており、アフリカが新しい発展段階に入っていることが実感できる」という声を聞くことも多い。その一方で、いまだに多くの人が文字の読み書きもできないなど、改善が進んでいない分野も多く残されている。
こうした中、三菱商事は、CSR活動を通してアフリカの社会課題の解決にも尽力している。例えば、前述したモザンビークのアルミ製錬事業に関しては、工場が設置されている首都マプト近郊の地域の発展のため、教育や医療、文化活動の促進にこれまで30億円以上を提供している。
さらに、近年のアフリカ事業の強化と並行して、2013年には、アフリカ地域に特化した社会貢献活動の方針として「 Supporting Africa’s Future Generation」というスローガンを打ち出している。アフリカ各国で学校建設や井戸づくりを支援したり、ソーラー充電式ランタンを提供して、子どもたちが安心して勉強できる環境を整えるほか、スラム街でトイレを建設するといった取り組みを進めている。また、環境分野では、1992年に「三菱商事欧州アフリカ基金」を設立し、これまで環境NGOに対し累計385万ポンド(約6億円)の資金援助を行っている。
教育レベルの向上は、質の高い労働者を育てるために必須だ。また、衛生環境が改善されなければ、感染症などのリスクから企業の進出は困難になる。多くの社会課題を抱えているアフリカにおいては、ビジネスは社会の底上げと一体的にやっていかなければならない。こうした中、「事業を通じ、物心共に豊かな社会の実現に努力する」ことを企業理念として掲げる三菱商事の挑戦が、アフリカ社会にどのような発展をもたらすのか。同社の取り組みに期待が集まる。
ルワンダ・キガリ浄水場案件の調印式で握手するメティート社のムタズCEO(右)とルワンダの水利省大臣
夜でも勉強できるよう、ソーター充電式ランタンを生徒に配布©Solaraid