一般財団法人ササカワ・アフリカ財団及び当行共同プロポーザル「アフリカの気候変動に対応するための科学的根拠(エビデンス)に基づく環境再生型農業プロジェクト」の承認(開発政策・人材育成基金(PHRDG))

2022年8月23日、日本政府(財務省)は、日本政府がアフリカ開発銀行を通じて設置・支援する「開発政策・人材育成基金(PHRDG)」の案件として、「アフリカの気候変動に対応するための科学的根拠(エビデンス)に基づく環境再生型農業プロジェクト(Evidence-based Regenerative Agriculture to Address Climate Change in Africa」(申請額:975,000USドル)を採択しました。本プロジェクトは、アフリカ開発銀行と一般財団法人ササカワ・アフリカ財団によって実施され、農業AIブレーン等の最先端テクノロジーと参加型の農業普及手法、改良遺伝資源(品種)を組み合わせることにより、エチオピア・ナイジェリアの小規模農家の生計向上と気候変動対策(緩和・適応)の両立を目指すものです。

 本プロジェクトは、ソフトバンク株式会社が提供する農業AIブレーン「e-kakashi(イーカカシ)」を活用して、対象地域の農業生態系(気候・植生・土壌)に即した環境再生型農業(農法)の実証・普及を行い、両国の対象農家20万人の農業生産性を向上させるとともに、農地からの温室効果ガス排出の削減、さらには農地への炭素貯留の増加による地球温暖化抑制への貢献を目標としています。なお、対象作物として、エチオピアではメイズと小麦、ナイジェリアではメイズとコメを想定しています。

 エチオピアやナイジェリアを含むアフリカ諸国の小規模農家の多くは、農業に必要な水資源を天水に依存しているため、干ばつや高温、降雨パターンの変化など気候変動の影響を強く受けています。かかる状況の下、最小耕起やマルチング(土壌被覆)による土壌の健全性(物理性・化学性・生物多様性)の維持・回復を通じて、農地の生産性を持続的に高める環境再生型農業が注目されています。

 たとえば、多様な土壌生物・微生物の存在は、団粒構造の形成に寄与し、その結果、土壌の保水・保肥力を高める他、共生する微生物が植物の必須栄養素の吸収を促進することにより、作物の生産性向上と気候変動へのレジリエンス(適応力)を高めることになります。また、施肥量の最適化を通じた亜酸化窒素(地球温暖化係数は二酸化炭素の298倍)や間断灌漑等による水田からのメタン(同25倍)発生の抑制や土壌有機炭素の貯留を通じて、温室効果ガス(GHG)排出削減による気候変動緩和への貢献が期待されています。

 本プロジェクトでは、上記の環境再生型農業を念頭に、「e-kakashi」による環境データや作物生育データの収集・分析結果に基づいて対象地域に最適な栽培技術を実証・普及するとともに、その気候変動に対する緩和・適応効果を科学的根拠(エビデンス)に基づき可視化します。具体的には、作物生産性(単収)の向上や投入材(特に水、肥料)の効率化を図りつつ、水田からのメタン発生や畑地からの亜酸化窒素発生を抑制し、さらには農地炭素貯留の増加を図ります。また、併せて、アフリカ開発銀行の「アフリカ農業変革のための科学技術プログラム(Technologies for African Agricultural Transformation:TAAT※)」によって開発された、耐暑性・耐病性等の性質を備えかつ微量栄養素が強化されたコメ、メイズ、小麦の改良品種を導入することにより、小規模農家の気候変動に対するレジリエンス(適応力)をさらに向上させるとともに、農家・消費者の栄養改善にも貢献します。

 なお、日本のNGOが申請するプロジェクトが、PHRDGに採択されるのは今回が初めてとなります。アフリカ開発銀行とササカワ・アフリカ財団は、今後も連携を深めながらアフリカの強靭かつ持続可能なフードシステムの確立に向けた事業を展開していく予定です。

 

プレスリリース全文はこちらをご参照ください。

 

※アフリカ開発銀行「アフリカ農業変革のための科学技術プログラム」(Technologies for African Agricultural Transformation)
アフリカ開発銀行は、アフリカの農業を、競争力がありインクルーシブな産業として、富を創出し、生計を向上させ、環境を保護する農業アグリビジネス産業に転換することに取り組んでいます。このビジョンを追求するため、アフリカ開発銀行理事会は、アフリカ農業変革のための科学技術プログラム(TAAT)を設立しました。このプログラムは、実証済みの技術を数百万人の農家に迅速に提供することにより、大陸全体の農業生産性を高めることをミッションとしています。TAATは、2025年までにアフリカ全体で4000万人以上の小規模農家を対象に生産性向上に寄与する技術へのアクセスを拡大し、作物、家畜、漁業の生産性を倍増させることを目指しており、最終的にTAATは、1億2,000万トンの食糧を追加で生産し、1億3,000万人を貧困から救うことを目指しています。

TAATは、国際農業研究協議グループ(CGIAR)や先進的な農業研究機関と提携して実証済みの技術にアクセスし、各国の農業研究・普及機関・システム、農業省、NGO、民間セクター、農民組織とコンソーシアムを組み、農家に技術を普及しています。フェーズ1(2018-2021)において、TAATはアフリカの27カ国で実証済み技術を展開し、フェーズ2(2022-2025)には37カ国に拡大する予定です。TAATが展開する実証済み技術には、高収量で、栄養価に豊富で、耐熱・耐乾性のある作物品種(交配品種含む)が含まれ、環境再生型農業に適した気候変動「適応策」および「緩和策」としての技術体系が含まれております。TAATの技術は、トウモロコシ、米、小麦、ソルガム、キビ、鉄分強化マメ類、大豆、キャッサバ、高カロチンサツマイモ、水産養殖、家畜のバリューチェーンにソリューションを提供します。またTAATの技術は、アグリビジネスを対象としており、ジェンダーと若者を重視することで、インクルーシブで持続可能なフードシステムに貢献しています。アフリカ開発銀行のTAATプログラムについては、こちらをご覧ください。

 

※一般財団法人ササカワ・アフリカ財団
1980年代にアフリカの角で起きた大飢饉を契機に、ジミー・カーター元米国大統領、緑の革命の父としてノーベル平和賞を受賞した故ノーマン・ボーローグ博士、日本財団元会長故笹川良一氏により1986年に設立されました。以降、延べ16か国で農業普及事業を展開し、現在はエチオピア、マリ、ナイジェリア、ウガンダの4か国を中心に170名近い現地スタッフが、小規模農家への農業普及活動と農業普及員の能力強化に取り組んでいます。当初は作物(穀物)生産性向上が活動の中心でしたが、2000年代以降は収穫後処理・農産加工やアグリビジネスを含むバリューチェーン全体に活動範囲を広げています。2021年に環境再生型農業、栄養に配慮した農業、市場志向型農業を3本柱とする新5カ年戦略(2021―2025)を策定し、アフリカの強靭かつ持続可能なフードシステムの実現を目指しています。ササカワ・アフリカ財団については、こちらをご覧ください。

 

環境再生型農業
ササカワ・アフリカ財団は、「環境再生型農業(Regenerative Agriculture)」を「土壌の健全性(物理性・化学性・生物多様性)の回復を通じて農地をより肥沃で生産性の高いものにし、ひいては農家の持続的な生計向上を可能にする農業」と位置付けています。また、そのための具体的なアプローチ(農法)として「保全農業」と「総合的土壌肥沃度管理」を採用しています。保全農業(Conservation Agriculture)は、①耕起による土壌撹拌を最小限に抑え(最小耕起)、②被覆作物または作物残渣で土壌を覆い(マルチング)、 ③輪作/間作を行うこと(作物多様化)により、土壌保全を中心とした環境負荷の軽減を目指す農法です。一方、総合的土壌肥沃度管理(Integrated Soil Fertility Management)は、①改良品種、②無機/有機肥料、③農薬/生物学的害虫防除、④農家の知見等を組み合わせた総合的な農地管理手法です。なお、これらの原則を一律に適用するのではなく、対象地域の農業生態系(気候・植生・土壌)や社会経済条件、作付け体系に即して柔軟に組み合わせることを想定しています。

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